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現場のリアル

車が水没したとき、駐車場の契約書には何が書いてあるか

今月13日の千葉の豪雨では、水に浸かった車の写真がいくつも流れてきました。

そのなかに、少し角度の違う記事がありました。8月21日に配信されたもので、残価設定クレジット――いわゆる残クレで買った車が水没したらどうなるか、という内容です。車は廃車になる。それでも支払いは残る。

浸水そのものについては先日の記事でハザードマップの話を書きましたので、今日は車と駐車場の話をします。当社は盛岡市内で駐車場の管理にも携わっていますので、この件は他人事ではありませんでした。

車両保険は、下ります

まず、誤解の多いところから整理します。

豪雨や洪水、台風や高潮によって車が水に浸かった場合、その損害は車両保険の補償対象です。補償範囲の広い一般型でも、範囲を絞ったエコノミー型でも、水災は含まれます。「天災だから保険は使えない」というのは、この場面には当てはまりません。

対象外となるのは、地震・噴火と、それらによる津波の損害です。こちらは特約を付けることで、全損時に定額を受け取る形になります。

ですから、豪雨で水没した車について保険金が出ないわけではありません。問題は、その先にあります。

下りるけれど、足りないことがあります

車両保険で支払われる金額には上限があります。契約時に定めた保険金額、つまりその時点での車の時価です。3年乗った車には、3年乗った車の評価しか付きません。

一方、残クレの残債は別の理屈で積み上がっています。数年後の下取り価格をあらかじめ「残価」として据え置き、その分を除いた金額を分割で払う仕組みですから、月々の負担が軽くなる代わりに、据え置かれた残価は最後まで残り続けます。そして車が全損になると、多くの場合、ローンの一括返済を求められます。

保険金が残債に届けば、そこで終わります。届かなければ、その差額だけが手元に残ります。車はもうありません。

「保険に入っていたから大丈夫」ではなく、「保険に入っていても、差額が出ることがある」。これが、いま起きていることの正確なところだと思います。差額を埋めるための特約を用意している保険会社もあります。ご自身の証券を一度確かめておけば、少なくとも何が起きるかは分かります。

駐車場の契約書に、重要事項説明はありません

ここからは、当社の本業に近い話です。

アパートやマンションを借りるときは、契約の前に宅地建物取引士が重要事項説明を行います。法律で定められた手続きです。

月極駐車場には、これがありません。

理由は制度の作りにあります。宅地建物取引業法が対象としているのは「宅地」と「建物」の取引であり、車を置くだけの月極駐車場は、そのどちらにも当たらないと扱われています。宅建業法の適用がないため、重要事項説明の義務も生じません。建物の賃貸借に付随する駐車場や、駐車場事業用地としての土地の賃貸借など、宅地に当たると判断される場合は別ですが、区画を一台分借りるだけの契約であれば、まず対象外です。

その結果、月極駐車場の契約書はたいてい一枚か二枚です。区画番号、賃料、支払日、解約の申し出の期限。そして多くの場合、天災による損害について貸主は責任を負わない、という一文が入っています。

説明を受けた記憶のないまま署名した、という方は少なくないはずです。義務がないので、説明されないまま進むことがあるのです。

その一文は、なぜ入っているのか

では、この免責の定めは、貸主が自分の都合で書き足したものなのか。そうではありません。

月極駐車場は、区画をお貸しする賃貸借契約であって、車をお預かりする寄託契約ではありません。鍵をお預かりしているわけでもない。停める場所をお貸ししているのであって、車そのものを保管しているわけではないのです。宅地建物取引業の団体が用意している標準的な契約書にも、同じ趣旨の条項が置かれています。特定の貸主が独自に設けた条件ではなく、業界で共有されている整理です。

考え方としては単純です。天災は、貸主にも借主にも防げません。防げないものの結果まで貸主が引き受けるとすれば、その費用はどこかから出さなければならず、行き着く先は賃料です。

ただし、免責の定めがあるから何もしなくてよい、という意味ではありません。側溝や排水口の詰まり、区画の不陸、フェンスや車止めの傷み。日頃の管理でできることは、事が起きる前に済ませておく。それが、管理を預かる側の務めだと考えています。

では、備えは誰が持つのか

整理すると、借りる側の備えは車両保険です。貸す側の備えは、日頃の管理です。役割が分かれている、ということになります。

それでも、割り切れない部分は残ります。もし駐車場の貸主に対して、天災時の車両補償まで義務づけたらどうなるか。賃料はその費用を織り込んだ水準まで上がります。あるいは、割に合わないとして貸すのをやめる土地が出てきます。空き地を月極として開放している所有者は、盛岡にも少なくありません。その方たちが手を引けば、停める場所そのものが減ります。

借りる側にとって、本当に良い結果になるのか。当社にもきれいな答えは出せていません。歯がゆいのは、そこです。

盛岡の区画を、どう見るか

千葉の被害は、川が溢れたというより、短時間の雨が下水の処理能力を超えたことによるものが中心でした。1時間に100ミリを超える雨が降れば、排水は追いつきません。

盛岡市は、中津川をはじめとする市内の河川について洪水ハザードマップを公表しています。当社のある山岸・紅葉が丘のあたりは、令和6年3月版の中津川洪水ハザードマップで確認できます。想定にあわせて、実際に浸水のあった箇所についての記載も添えられていますので、想定と記録の両方に目を通すことができます。

一方で、下水道の処理能力を超えたときを想定した内水ハザードマップは、いまのところ二つです。盛岡駅周辺および合流式下水道区域(平成30年公表)と、盛南・仙北・都南地区の国道4号周辺区域(令和5年公表)。いずれも1時間120ミリの降雨を想定したものです。山岸のあたりは、この内水の想定図の対象にはまだ入っていません。千葉で起きたのは、まさにこの内水型の浸水でした。

盛岡でこれまでに観測された1時間あたりの最大雨量は、令和6年8月27日の68.0ミリです。120ミリはまだ経験していません。ただ、千葉は経験しました。

図に描かれていない部分は、自分の目で見るしかありません。契約しようとしている区画が、周りの道路より低くないか。近くの側溝や水路はどこへ流れているか。大雨のあと、その区画に水の残った跡がないか。夕立の日に一度、傘をさして見に行くだけでも分かることがあります。

誰かが守ってくれる、という前提を少し外す

車を買うとき、多くの方は月々の支払いを見ます。駐車場を借りるとき、多くの方は賃料と場所を見ます。どちらも当然のことです。

そのうえで、もう一つだけ。全損したときに何が残るのか。そこに置いた車が水に浸かったとき、誰が何を負うのか。契約の前の、まだ落ち着いているうちに一度だけ確かめておく。それだけで、後から取れる手が変わってきます。

契約書は、事が起きてから読むと冷たく感じます。事の起きる前に読めば、ただの情報です。

当社は1984年から盛岡市山岸で、賃貸と管理の現場に立ってきました。駐車場の区画や契約についてのご相談も承っています。ご相談は完全予約制です。お電話(営業時間内は019-662-5353、時間外は自動応答の050-1720-0971)のほか、写真を添えていただける場合はLINE公式アカウントでも承っています。

本記事に記載した保険・法令に関する内容は2026年8月時点の一般的な整理です。補償の範囲や免責の有無は、ご契約の約款および個別の契約書によって異なります。具体的な事案については、保険会社の窓口または弁護士等の専門家にご確認ください。

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