「引き継いでほしい」は4.4パーセント。住まいの価値を分けるものが、静かに入れ替わっています
共同通信が9月12日に配信した記事に、目が留まりました。リクルートが50歳から69歳のおよそ1500人に行った意識調査です。いずれも子どもがいて、その子どもとは同居していない方たちでした。
自分の住まいを子どもに引き継いでほしいと答えた人は、4.4パーセント。できれば子どもに住んでほしいという答えを足しても、1割を少し超える程度です。いちばん多かったのは、子どもの負担になるなら、できれば自分の代で整理したい。24.5パーセントでした。
親の家は継ぐもの、土地は持っていれば安心。そう言われてきた時代を現場で見てきた者として、4.4という数字の小ささには、しばらく手が止まりました。
土地が富を生んでいた時代は、もう終わっている
かつて、この国の土地の多くは農地でした。土地は食べ物を生み、手をかけるほど一族の暮らしを直接支えるものでした。だから先祖代々守る意味があったし、継ぐことに理屈は要りませんでした。
いまは違います。勤め先から収入を得る暮らしが当たり前になり、住まいの敷地はそれ自体では何も生みません。むしろ固定資産税がかかり、草が伸び、雪が積もり、屋根が傷みます。持っているだけでお金が出ていく側へ、性質が変わりました。
4.4パーセントという数字は、その変化に多くの方が気づいた結果だと私は見ています。継がせたくないのではなく、継がせるだけの理由が、いまの住まいには残りにくいということです。
「50年先も値打ちがある」という前提で、お金が動いている
先日、返済期間が40年、50年といった超長期の住宅ローンに金融庁が監視を強める、という話を書きました(50年ローンと「80歳のリアル」)。30歳で組めば、完済は80歳です。
あのときは借りる側の年齢の話をしましたが、同じことを貸す側から見ると、別の意味が出てきます。50年のローンが成り立つということは、その住まいに50年のあいだ担保としての値打ちが残り続ける、という前提が置かれているということです。家計の話であると同時に、その土地が半世紀後にどう見られているかの話でもあります。
災害のリスクは、すでに毎年の費用の差になっている
ここから書くことは、予想ではありません。すでに起きていることです。
住宅向けの火災保険では、2023年6月に参考純率の改定が金融庁へ届け出され、水災の料率が市区町村を単位に1等地から5等地までの5区分に分かれました。水害の危険度が高いとされる地域ほど、水災部分の保険料が高くなります。各社の商品改定を通じて、この区分が順次反映されています。
つまり災害のリスクは、もう万一のときの心配だけではなくなりました。毎年の保険料という、はっきり目に見える維持費の差として現れています。同じ広さ、同じ築年数の家でも、場所によって持ち続ける費用が変わる。資産価値という言葉より先に、この事実のほうが家計に効いてきます。
担保評価にまで及ぶかどうかは、まだ推測です
ここから先は私の見方で、確かめられた事実ではありません。
50年という長さでお金を貸す以上、貸し手は数十年先に建物が失われる可能性まで織り込まざるを得ないのではないか。そう考えると、ハザードマップが融資の判断に影を落とす場面は、これから増えていくのではないかと想像しています。ただし、そうした運用が実際に行われているという話を、私はまだ確かめていません。断定はできません。
それでも、土地を決める前にハザードマップを開く理由は、すでに十分あります。命と、保険料です。担保評価の話はその先にあるもので、いまの時点でも、開いておく値打ちのある資料です。
都市計画は、無料で読める情報です
もうひとつ確かめておきたいのが、都市計画です。盛岡市は立地適正化計画を定めていて、居住を誘導する区域が示されています。市のホームページでも窓口でも確認できます。
誤解のないように書きますが、区域の外側だから駄目だ、という話ではありません。区域の内と外とでは、これから道路や下水、公共施設に手のかけられ方が変わっていく可能性がある。それを知ったうえで選ぶのと、知らずに選ぶのとでは、数十年後の意味が違ってくる、ということです。
日当たりが良かったから。価格が手ごろだったから。土地を決めた理由として、これまでは十分に通用しました。ただ、数十年を背負う買い物になった以上、その理由だけでは足りなくなってきたと感じています。
継がせないことを前提に、選ぶ
4.4パーセントという数字を、寂しい話として読む必要はないと思っています。子どもに残すために我慢して持ち続ける、という縛りが外れたということでもあるからです。
自分の代で使い切るつもりで選ぶなら、見るところが変わります。売りやすさ、貸しやすさ、そして手放すまでにかかる費用。継ぐ前提だったころには見なくてよかったものを、買う前に見ておくことになります。実家の片付けと墓じまいのご相談が途中で止まってしまうのも、たいていはこの順番が後回しになっているからです。
当社は1984年から盛岡市山岸で、継ぐか手放すかの相談を受けてきました。ハザードマップと都市計画図は、売るときも買うときも、いちばん先に一緒に開く資料です。
本記事の調査結果は、2026年9月12日の共同通信の配信記事によります(調査主体はリクルート、対象は50〜69歳で子どもがいて同居していない約1500人)。水災の料率区分は、損害保険料率算出機構が2023年6月に金融庁へ届け出た住宅向け火災保険参考純率の改定によるもので、実際の適用時期や保険料は保険会社および商品によって異なります。立地適正化計画の区域は盛岡市の公表資料によります。担保評価や融資条件に関する見通しは筆者の見方であり、金融機関が公表したものではありません。