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ニュースと不動産

田老に宇宙産業がやってくる 空き地活用に悩んできた盛岡の不動産屋の目線から

先日の岩手日報の朝刊を見て、思わずコーヒーを飲み込み損ねそうになりました。

2026年8月25日付の一面、見出しは「宮古市 宇宙産業誘致へ」。脇に「田老で小型衛星打ち上げ」「ロケット開発企業と来月協定」とあります。正直、最初は「まさか」というのが率直な感想でした。

空き地の「活用」に頭を抱えてきた身として

盛岡で長年不動産の仕事をしていますと、沿岸部の広大な土地の「活用」には、いつも頭を悩まされます。田老をはじめ沿岸部には、震災後の区画整理で生まれた広い土地が今も残っている場所があります。商業施設を建てるには商圏が厳しく、住宅地にするにも人が戻りきっていない。手堅くいくなら「メガソーラーでも置くか」くらいしか選択肢が浮かばないような土地に、まさかの「宇宙産業」です。予想もしない方向からの話でした。

記事によれば、宮古市は衛星射出装置の開発企業や宇宙産業の誘致に乗り出しており、ロケット開発を手がけるアストロエックス(福島県南相馬市)と、早ければ来月にも連携協定を結ぶとのことです。田老の市有地では、小型衛星を軌道に乗せる実験が始まる見通しだそうです。市には他にも複数の企業から照会が来ており、海に面した立地を「地理的優位性」として掲げながら誘致を進めているとのことでした。

最初は「地方創生にありがちな夢物語だろう」と少し冷めた目で見ていたのですが、調べてみると、これがなかなか理にかなった話でした。

「ロックーン」という耳慣れない方式

まず意外だったのは、想像していたような、地面から垂直に立ち上がる巨大なロケットとは違うという点です。アストロエックスが手がけているのは「ロックーン」という方式で、気球でロケットを成層圏まで運び、空中で切り離して発射します。ロケット単体で打ち上げるより設備を小さくできるぶん、こうした土地でも挑戦しやすいのだろうと思います。

同社は2026年7月31日、大船渡市で40キロの気球を放球する実験を実施し、放球から回収までを成功させています。田老の話は、突然降って湧いた夢物語ではなく、沿岸ですでに積み上げてきた実験の延長線上にあるということです。そう考えると、少し見方が変わってきます。

東向きに開けた海、という条件

ロケットは地球の自転の力を利用できるため、東に向かって打ち上げるほうがエネルギー効率がよいとされています。地球は西から東へ自転しており、その速度は赤道付近で秒速およそ464メートル、種子島あたりの緯度でも秒速およそ400メートルにのぼります。東向きに打ち上げれば、この自転の速度をロケットの速度に上乗せできるため、燃料を節約できるという理屈だそうです。種子島や内之浦も、できるだけ南側で、東側の開けた場所が選ばれています。

宮古は種子島ほど南ではありませんので、自転による恩恵という点では突出しているわけではないだろうと思います。ただ、東側に障害物のない広大な太平洋が広がっている点、打ち上げ方向に航路や集落がない点では、条件に合っています。記事でも、田老の海側に障害物がないことが、実験適地として注目されている理由に挙げられていました。土地の適性は、緯度だけで決まるものでもないようです。

田老の防潮堤の上に立ち、冷たい海風を受けながら、見渡す限りの水平線を眺めたことがある方なら、感覚として分かるかもしれません。「ここで何ができるのだろう」と途方に暮れるような広大な余白が、宇宙へ向かう発射の場としては大きな可能性を秘めていた、という話です。土地の価値は用途次第で変わるということを、仕事柄よく分かっているつもりでしたが、あらためて考えさせられました。

世界が宇宙へ動き出す中で

気づけば時代は、スペースXが次々とロケットを打ち上げ、宇宙から地球全体へ通信網を広げるような段階に入っています。その世界的な流れの末端に、この岩手が、あの田老が加わろうとしている。夢のある話だと素直に思います。

それでも、不動産屋としての性分

とはいえ、40年以上この業界に身を置いてきた者としては、手放しで喜べない部分もあります。

「それで、そのビジネス、収支は合うのだろうか」という、不動産屋としての性分です。

ロケット発射場の採算はどう見積もるものなのか、設備投資の回収計画はどうなっているのか。期待半分、不安半分というのが正直なところです。どれほど夢のある事業でも、収支が合わなければ長くは続かないという現実を、現場で何度も見てきました。実験と協定はまだこれからの段階で、実際に打ち上げが定着するまでには、いくつもの段階が残っているように思います。

それでも、たまにはこういう話があってもよいのではないかと思います。日々、坪単価や境界線、固定資産税といった、地に足のついた話ばかりを扱っています。たまには、田老のあの空き地から、気球に吊られたロケットが本当に空へ飛んでいく姿を思い浮かべてみるのも、悪くありません。

もし本当に打ち上げの日を迎えたら、盛岡から車を走らせて、見に行ってみたいと思っています。

本記事は2026年8月25日付岩手日報朝刊、およびアストロエックス株式会社の発表内容をもとに整理しています。協定の締結時期や実験の詳細は、今後変更される可能性があります。

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