36万円の折りたたみiPhoneは「深い溝(キャズム)」を越えるか iPad miniとの融合が見せる新たな活路
今朝の新聞を広げて、真っ先に目に飛び込んできたのは「iPhone初の折り畳みモデル『デュオ』、36万円超」という見出しでした。
学生時代、Appleが誕生し、ビル・ゲイツ率いるMicrosoftがデジタル業界の礎を築き上げていく過程を、リアルタイムで見てきた身です。この手のニュースには、いまでも無意識に心が躍ります。
ただ、国内価格は256GBのモデルで36万4800円、最上位の2TBモデルでは57万4800円。発売は10月23日だそうです。この数字を見た瞬間、いち実務家として、極めて冷静に算盤を弾いている自分がいました。
「世界初」ではなく、溝に橋を架ける会社
折りたたみのスマートフォンという概念自体は、決してAppleの専売特許ではありません。2019年ごろから他社の製品がすでに市場に出ていて、今回のiPhone Duoは、いわば「後出し」です。
ここで重要になるのが、マーケティングでいう「キャズム理論」です。アメリカのコンサルタント、ジェフリー・ムーアが1991年の著書で示した考え方で、新しい技術が一部の熱心な愛好家から一般の多数派へ広がる手前には、深く巨大な溝(キャズム)が横たわっている、というものです。
かつてのApple、そしてスティーブ・ジョブズの最大の武器は、「世界初を作ること」ではなかったと私は見ています。このキャズムに橋を架け、大衆を向こう側へ引きずり込む。その卓越した手腕こそが、あの会社の真骨頂でした。
36万円を、盛岡の家賃で測ってみる
では、今回のiPhone Duoはその溝を越えられるのか。
36万円といえば、盛岡市内で家賃3万円ほどの単身者向けアパートなら、丸1年分に相当します。市内の1Kの平均的な家賃で割っても、8か月分ほど。重たい金額です。
日頃、GAS(Googleの表計算などを自動で動かす仕組み)やHTMLを使って、社内の仕組みを泥臭く自前で整え、費用対効果を追いかけている現場の肌感覚からすると、この端末はすぐさま飛びつける「便利な道具」とは言い難いものがあります。
Appleの歴史を振り返っても、キャズムの手前で価格や実用性の壁を越えられず、沈んでいった製品はあります。1990年代の携帯情報端末「ニュートン」は、その代表例でしょう。
勝機は「iPad miniとの融合」と「シニア層」にある
それでも、この製品には明確な勝機となる考え方が隠れているのではないか、と思っています。それは、いまのiPhoneとiPad miniを一台に合わせるという可能性です。
実際のところ、いまのスマートフォンは、ご高齢の方にとって画面が小さく使いづらいものです。あまり外を出歩かない高齢の方の中には、見やすいiPad miniを卓上に置いて使っている方が、かなりいらっしゃいます。
iPhone Duoの内側の画面は7.6インチ。いまのiPad miniの8.3インチには少し届きませんが、スマートフォンとしては際立って大きな画面です。
もし将来、iPad miniというラインナップがなくなり、iPhoneと一つのシリーズにまとまるのだとすれば、「持ち歩くときはスマホ、卓上で使うときは見やすいタブレット」という切れ目のない使い方が生まれます。高齢化が進むこの社会で、これまでになかった世界を切り開く、強力な要素になりうるはずです。
なお、iPad miniとの統合はアップルが発表したことではなく、あくまで私の見立てです。
答え合わせは、ずっと先に
この超高額な折りたたみ端末が、ガジェット好きのコレクションで終わるのか。それとも、スマホとタブレットの境界線をなくし、新たな標準としてキャズムを越える日が来るのか。その行方を見極めるのは、とても興味深いことです。
ただ、少なくとも私がこのスタイルを日常の業務の道具として手にするのは、キャズムの向こう側で価格と実用性がきちんと釣り合うようになった、ずっと先の時代になりそうです。
本記事の価格・画面サイズ・発売日は、2026年9月10日(日本時間)のアップルの発表を伝える報道(ITmedia NEWS、Forbes JAPAN)に基づく整理です。盛岡市の家賃の目安は、不動産情報サイトに掲載された盛岡市の1Kの平均賃料(2026年9月時点)によります。iPad miniとの統合やシニア層への広がりは筆者の見方であり、アップルが発表したものではありません。