不動産会社の説明責任はどこまでか 二極の責任と程度の責任
不動産取引で宅地建物取引業者(以下、業者)が負う説明責任は、消費者保護の要となる仕組みです。一方で実務では、この責任がどこまで及ぶのかについて当事者の認識が食い違い、それが紛争の大きな原因になっています。本稿では業者の責任を「二極の責任」と「程度の責任」に分け、調査義務の限界と、無理のないリスクの分け方を考えます。
宅建業法35条が定める「二極の責任」
宅地建物取引業法第35条の重要事項説明は、業者が負う説明責任の、客観的でぶれのない基準として働いています。登記された権利、都市計画法や建築基準法などの法令に基づく制限、私道の負担など、売買で説明が義務づけられた項目は149項目にのぼります。これらは「説明したか、しなかったか」「事実と合っているか、いないか」で判定できます。これが「二極の責任」です。
国は説明すべき事項を法令で列挙することで業者の義務の範囲をはっきりさせ、その範囲の中で消費者保護を確かなものにしようとしているといえます。
47条と民法が抱える「程度の責任」
ただ、不動産は一つとして同じものがない財です。35条の法定項目だけで取引のすべてのリスクを拾い切ることは、原理的にできません。売主がどこまで説明しなければならないかを包括的に定めた規定も、民法にはありません。2017年の民法改正では、契約を結ぶ過程での説明義務や情報提供義務を条文にすることが検討されましたが、場面によって中身が大きく異なるとして見送られました。
この領域で問題になるのが「程度の責任」です。宅建業法第47条は、35条の項目に限らず、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げないことや、事実と異なることを告げることを禁じています。民法の契約不適合責任も、引き渡した物件が契約の内容に適合しているかを問うものです。
取引上の瑕疵を8つに分類した実務書の整理には、「専門検査により判明する隠れた瑕疵」や、業者が通常行うべき不動産調査で知り得る隠れた瑕疵といった区分があります。同じ図では、買主の自己責任の範囲と売主の説明義務の範囲が、途中で重なるように描かれています。
この重なりの部分は、仲介を引き受けた業者が善良な管理者の注意をもって、どの水準まで調べ、確かめるべきだったかという、程度で評価される問題です。白黒で割り切れないため、事後に紛争になりやすい領域です。
調査の費用は誰が負うのか
このグレーゾーンでは、消費者保護の要請から、業者が通常の調査では知り得なかった瑕疵についても、過失の有無を問わず責任を求める声が聞かれます。程度の問題に、二極の制裁を当てはめる考え方です。しかし、仲介報酬の範囲で業者が際限のない調査義務を負うことは経済的に成り立たず、取引そのものを滞らせることにもつながります。
参考になるのが米国の取引慣行です。米国では、エスクローと呼ばれる第三者機関が権利関係の調査を担い、建物の検査(ホームインスペクション)は買主の費用で行われるのが一般的とされています。日本でも、建物状況調査、地盤や土壌の調査、境界の測量などは、仲介とは別に依頼する有償の専門調査です。
法定の範囲を超えて安心を得るための費用は、その安心を受け取る人が負担する。そうした考え方が、取引の仕組みに組み込まれているといえます。
説明の範囲と限界を、最初に共有する
不動産取引の紛争の多くは、「程度の責任」への過度な期待と、調査は無償で受けられるという思い込みから生まれています。
業者に求められる説明責任とは、あらゆるリスクを無限に保証することではありません。取引の初めの段階で、法令上の通常の調査義務の範囲をはっきり示し、その調査では分からないことが残りうるという限界も、客観的にお伝えすることです。
そのうえで、費用をかけて専門の調査を行うか、分からない部分を承知のうえで取引を進めるかを、買主ご自身に選んでいただく。これが無理のないリスクの分け方であり、本当の意味での消費者保護につながると考えています。
本記事は、宅地建物取引業法第35条・第47条、同施行令第3条・施行規則第16条ほか(重要事項説明の項目数は「売買重要事項説明義務項目(149)」2026年4月1日施行分による)、民法の契約不適合責任、重要事項説明の実務書にある「取引上の瑕疵8分類」をもとにしています。