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八代市役所の免震装置損傷から考える、建物の安全は最後に誰が担保するのか

熊本県の八代市役所で、地震により本庁舎の免震装置が損傷したという記事を読みました。専門家の報告を受けて、庁舎はそのまま使い続けられています。

安全が確認されたのなら安心だ、と読み流せる記事かもしれません。ただ、盛岡で40年以上、住宅と建築の現場に関わってきた当社としては、少し立ち止まって考えたくなる内容でした。

八代市役所で起きたこと

2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震では、最大震度7が観測され、八代市でも震度6強を記録しました。この地震で、八代市役所本庁舎の地下にある免震装置が損傷しました。揺れを抑えるダンパーがずれたり潰れたりしたと報じられ、市は地下への立ち入りを禁止しています。

そのうえで市は、庁舎機能を移さない判断をしました。小野泰輔市長は、施工業者や設計者、日本免震構造協会、国土技術政策総合研究所といった専門家から「そのまま使える」「構造は鉄骨で保持されている」との報告を受けたと説明しています。当面は応急的な補強を施し、震災対応が落ち着いた段階で本格的な改修に入る方針とされています。

この庁舎は、2016年の熊本地震で被災したことを受けて建て替えられたものです。2022年に完成し、総事業費は約171億円と報じられています。

現場の人間として、まず気になったこと

先に申し上げておくと、免震装置が損傷したこと自体は、免震が設計どおりに働いて地震のエネルギーを吸収した結果だという見方があります。壊れるべきものが壊れて上の建物を守ったのであれば、技術的にはむしろ想定内です。

気になったのは、そこではありません。損傷した装置の上で人が働き続けるという判断を、誰が背負っているのかという点です。

ここで言う責任とは、気持ちの問題ではありません。万が一のことが起きたときに、金銭的に賠償する主体が実在するのかという、実務の話です。

姉歯事件のあとに増えたのは、事前のチェックでした

少し時計の針を戻します。2005年11月に発覚した構造計算書偽装事件、いわゆる姉歯事件のことです。当時、建築や不動産の実務に携わっていた者にとって、業界全体に向けられた視線の冷たさは忘れがたいものでした。

この事件を受けて、2007年6月に改正建築基準法が施行され、一定規模以上の建物には構造計算適合性判定、いわゆるピアチェックが義務づけられました。第三者がもう一度、構造計算を検算する仕組みです。運用が厳格だったことから建築確認が一時的に滞り、当時は「官製不況」とも言われました。

チェックの層は確かに厚くなりました。ただし増えたのは、建てる前の確認です。壊れたあとに誰が弁済するのかという部分は、別の話として残りました。

保険の仕組みは、新築住宅にしかありません

姉歯事件のもうひとつの帰結として、2009年10月に住宅瑕疵担保履行法が施行されました。新築住宅を引き渡す事業者に、保険への加入か保証金の供託を義務づけた法律です。売主が倒産しても、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防ぐ部分について、引渡しから10年間、買主が救済される仕組みが用意されました。

当社が日常的に扱う新築住宅については、事後の担保がきちんと制度化されたことになります。

ただし、この法律の対象は新築住宅に限られています。事務所も、店舗も、そして庁舎も、対象外です。つまり八代市役所のような建物には、姉歯事件のあとに整えられたこの仕組みは及びません。

設計者や施工者が加入する賠償責任保険はあります。とはいえ、総事業費171億円の庁舎に生じうる被害を丸ごと引き受ける規模のものではないだろう、というのが実務の感覚です。判断を示した専門家個人が金銭的に担保できるとも考えにくいところです。

建てる前の確認は厚くなり、建てたあとの弁済は非住宅では制度として整っていない。ここが、いま建築や不動産の現場に残っている課題だと考えています。

合理的な判断と、責任の所在は別のものです

災害対応の最中に職員を退去させて庁舎機能を移すことは、現実には難しい判断です。市の説明には相応の合理性があります。

そのうえで申し上げると、合理的な判断であることと、誰かが責任を負っている状態であることは、別のものです。この二つが混ざったまま進むことに、現場の人間としては落ち着かないものを感じます。

民間の保険であれば、損傷した免震装置を抱えた建物に無条件で引受の判断が下りることは、まず考えにくいところです。使用の制限か、免責の設定か、保険料への反映か、いずれかの形で条件が付きます。専門家の見解という言葉だけで先へ進む場面が多いのは、日本の建築行政に固有の事情かもしれません。

盛岡にとっても、対岸の火事ではありません

熊本の市役所の話であって盛岡には関係がない、とは考えていません。

盛岡のような地方都市では、誰かの「大丈夫だ」という一言で話が収まってきた場面が、少なからずあります。建物の安全を誰がどう担保するのかという問いは、この先どの街にも同じように向けられます。

盛岡の家づくりは、条件のうえでも楽ではありません。建築基準法上の垂直積雪量は敷地の標高から算出され、市街地でおよそ0.8メートル、標高が上がればさらに大きくなります。そこに冬の凍結が加わります。雪の重みと凍結に耐える建物をつくるということは、計算書を揃えることだけでは終わりません。

当社は1984年から、盛岡市・滝沢市・矢巾町・雫石町・紫波町で不動産の現場に立ってきました。建物の状態や、修繕をめぐる責任の所在について気がかりがある場合は、資料を拝見しながら整理するところからお手伝いできます。ご相談は完全予約制で、購入に関するお問い合わせ、またはお電話(営業時間内は019-662-5353、時間外は自動応答の050-1720-0971)で承っています。

本記事に記載した八代市役所に関する情報は、熊本日日新聞およびNHKの報道、気象庁「令和8年熊本地震」の公表資料にもとづく2026年8月時点のものです。制度に関する記述は国土交通省「住宅瑕疵担保履行法」の公表資料、垂直積雪量は盛岡市の公表資料によります。個別の建物の安全性を評価するものではありません。

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