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ニュースと不動産

景品の上限が20年ぶりに動きます それでも不動産の店頭は変わりません

今朝、事務所のデスクでコーヒーをすすりながら新聞を広げた手が、少し止まりました。景品の上限金額について、消費者庁が引き上げの検討に入ったという記事です。

これを見た方は、家のような大きな買い物なら、車や最新家電がついてくるようになるのだろうか、と想像されるかもしれません。先に結論を書きます。そうはなりません。理由を順に整理します。

何が検討されているのか

報じられたのは2026年8月29日です。商品を買ったときに事業者側からもれなくもらえる景品、いわゆる総付景品の上限金額について、消費者庁が引き上げを検討しているという内容でした。円安などによる物価高騰が主な理由で、消費者の購買行動への悪影響がないかを検討したうえで、早ければ2027年中の改定を目指すとされています。実現すれば、およそ20年ぶりの改定です。

現行の基準は、内閣府告示で次のように定められています。取引価格が1,000円未満なら景品は200円まで。1,000円以上なら取引価格の2割まで。この数字が動くかもしれない、という話です。

なお、くじ引きのように偶然性を伴う懸賞は、この総付景品とは別のルールで動いています。今回の報道はあくまで総付景品の話です。

不動産には、別建てのルールがあります

ここが今回いちばんお伝えしたい点です。引き上げが検討されている「200円」「2割」という数字は、不動産業には適用されません。

景品表示法には、特定の業種について別の告示を置くことができる仕組みがあります。不動産業はその一つで、平成9年4月25日公正取引委員会告示第37号が置かれ、一般のルールより優先されます。さらに業界内には、不動産業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約があります。法令の側と業界の側で、二階建てになっているわけです。

数字はこうなっています。もれなく渡す景品は、取引価額の10分の1、または100万円のいずれか低い額まで。くじ引きなどの懸賞は、取引価額の20倍、または10万円のいずれか低い額まで。しかも懸賞の景品総額は、その懸賞にかかる取引予定総額の2パーセント以内に抑える必要があります。

基準となる取引価額の取り方も独特です。売買であれば対象不動産の売買価額ですが、仲介の場合は媒介報酬の限度額が基礎になります。物件価格そのものではありません。

つまり、消費者庁が一般ルールの数字を動かしたとしても、不動産の上限が自動的に上がるわけではありません。不動産業の告示と規約が別途見直されない限り、現場の物差しは今日と変わらない。ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。

厳しいというより、効き方が違います

不動産の景品ルールは厳しいと言われますし、私自身もそう感じてきました。ただ、正確に言えば、厳しいというより効き方が違います。

一般ルールが取引価額の2割であるのに対し、不動産は10分の1です。そのうえ100万円という定額の頭打ちがあります。取引の額が大きくなるほど、この枠はきつく効いてきます。家の値段が上がっても、渡せるものの上限はそこで止まる。高額な取引を扱う業界だからこそ、独自の物差しが置かれている。そういう構造です。

現場が頭を抱えるのは、上限より手前のところです

正直に書きますと、カレンダーや名入りタオル、ポケットティッシュの類でこの上限に引っかかることは、まずありません。桁がまるで違いますから。

では現場が何にため息をついているのか。ひとつは、単純に仕入れ値です。昔は気軽に配れていたカレンダーも名入りタオルも、なんならただのポケットティッシュですら、ここ数年で値段が上がりました。見積書を眺めながら、今年は数を減らすか、と考える。上限がどうこうという以前の話です。

もうひとつは、線引きの問題です。厳しい寒さのなか、雪に埋もれた境界標を一緒に探してくださった地主さん。世代を超えてお付き合いのある大家さん。感謝のしるしに、少し気の利いたお礼の品をお渡ししたいと思うことがあります。

ただ、それが取引に付随して渡すものなのか、季節の挨拶なのか。相手が売主や貸主であっても、取引の相手方である以上、景品規制の射程に入る場面はあります。だから電卓を叩く前に、まずこれはどういう性質のものかを考える。感謝の気持ちと、ルールの線引き。その板挟みで手が止まるのが、現場の実際です。

見ている目は、確かにあります

業界内で、派手な成約特典はすぐ問題になると言われるのは、脅し文句ではありません。不動産公正取引協議会という組織が地区ごとに置かれていて、規約に違反する疑いがあれば調査が行われ、警告や違約金といった措置がとられる仕組みが実際に動いています。しかもその申し出は、誰にでもできます。

派手にやれば、目立ちます。目立てば、届く。それだけの話です。

それで、店頭に豪華な景品が並ぶのか

仮に将来、不動産の枠まで見直される日が来たとして。私の考えは変わりません。そうはならないでしょうし、そうすべきでもないと思っています。

不動産は人生で最も大きな買い物のひとつです。豪華なおまけがもらえるからという理由で決断を急いでいただくのは、危うい。目の前の景品に気を取られて、物件そのものの価値や、何十年と続くローンの重みに対する冷静な判断が鈍ってしまっては、本末転倒だからです。

私たちがお渡しできる、いちばんの景品

1984年から盛岡で店を続けてきて、確かだと思っていることがあります。私たちがお客様にお渡しできる最も大きな景品は、モノではありません。嘘偽りのない取引と、鍵をお渡しした後に続く時間の安心です。

ルールの数字がどう変わっても、私たちのやることは変わりません。今日も一件ずつ、確かめながら仕事を進めます。

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