「仕事か家庭か」の2択からの脱却。不動産の実務現場から考える、これからの働き方
今朝(10月1日)の新聞の投書欄に、盛岡市で会社役員を務める29歳の方による「『仕事か家庭』2択脱却へ」という投書が掲載されていました。大変考えさせられる内容でした。
仕事に打ち込むか、家族との時間を取るか。どちらかを選べば片方を手放さざるを得ないという岩手県の現状に対し、「誰もが諦めなくていい第三の選択肢」を求める、若いリーダーの切実なメッセージでした。
私たち不動産業者もまた、お客様の住まいや暮らしという人生の基盤に直接関わる仕事をしています。だからこそ、仕事と家庭の両立というテーマは他人事ではありません。長年この地域で不動産の実務に向き合ってきた立場から、これからの働き方と組織のあり方について、3つの視点でまとめてみます。
「バランス」から「インテグレーション(統合)」へ
投書で指摘されている「仕事か家庭か」という葛藤は、両者を天秤にかけて切り分ける、従来のワークライフバランスの考え方の限界を示しています。これからは、人生全体の質を高める「ワークライフ・インテグレーション」への転換が必要です。
とりわけ不動産の仕事では、この統合が大きな強みになります。自身が子育てに奮闘した経験、地域のコミュニティに参加した経験、住まい探しで悩んだ経験。そうした私生活での経験そのものが、お客様への血の通った提案や助言に直結するからです。
家庭や地域での充実した時間が仕事の視野を広げ、仕事での成長が暮らしを豊かにする。投書の筆者が求める「第三の選択肢」とは、まさに仕事と生活の対立をなくし、経験を相乗効果に変えていく働き方だと受け止めました。
「時間をかけること」を評価する仕組みからの転換
投書では、岩手県で出産や育児を機に非正規雇用へ移らざるを得ない女性が多い現実も指摘されていました。
不動産業界も長年、「土日出勤は当たり前」「夜遅くまでの接客や書類作成」「足で稼ぐことが美徳」といった、長時間の拘束を前提とする雇用文化が根付いてきた業界です。時間をかけることを評価する仕組みのままでは、代わりの担い手の確保も、休みやすい職場も実現しません。
だからこそ、職務の内容と成果で評価する「ジョブ型雇用」の考え方を取り入れることが必要です。投書で提案されているICT化による業務の効率化も同じです。IT重説(オンラインでの重要事項説明。賃貸は2017年、売買は2021年から本格運用)や、2022年の宅地建物取引業法の改正で可能になった書面の電子交付、VR内見などのデジタルの道具を、単なる便利な道具で終わらせてはいけません。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現し、評価の仕組みを根本から改めるための手段として使うべきです。
世代間のギャップを越える対話
こうした変革を現場で進めるとき、最大の壁となるのが世代間の価値観の違いです。
対面での泥臭いやり取りや人間関係を重んじるベテラン層と、個人のパーパス(存在意義)やタイムパフォーマンス、デジタルの活用を重視する若手層。この両者が交わる現場では、人をまとめるやり方そのものを改める必要があります。
役職による一方的な押し付けではなく、情報や目的を開示し、納得と共感でチームをまとめる運営が求められます。世代間で仕事の進め方に摩擦が起きたときには、「人」と「問題」を切り離して考えることが大切です。「いまの若手は」「上の世代は」と一括りにせず、一人ひとりの特性に合わせて対話し、「誰もが働きやすく、お客様に良い住環境を届ける」という共通の目的に焦点を当てて合意を形づくっていく。その姿勢が必要だと考えています。
先輩世代の覚悟が問われている
労働時間をどう減らすかという次元を越えて、多様な生き方と組織の成長をどう両立させるか。今回の投書が示した問いは、女性だけの問題でも、一企業だけの問題でもありません。
私たち先輩世代もまた、「長時間労働と根性」という過去の成功体験をいったん手放し(アンラーニング)、社会全体でこの第三の選択肢を築いていく覚悟が問われています。
お客様に豊かな暮らしを提案する不動産会社だからこそ、まずは働く私たち自身が豊かな暮らしを体現できる環境をつくっていかなければならない。今朝の新聞を読み、決意を新たにしました。
皆さんの職場やご家庭では、どのような「第三の選択肢」を工夫されているでしょうか。一緒に考えていきたいテーマです。
本記事の投書の内容は2026年10月1日付の新聞投書欄によります。IT重説の運用開始時期は国土交通省の公表、書面の電子交付は2022年5月18日施行の改正宅地建物取引業法によります。