3Dプリンターの駅舎は、岩手の「新しい土壁」になるか
釜石の小佐野駅が3Dプリンターで建て替えられるそうです。このニュースを見て、「いよいよ岩手にも来たか」と驚いた反面、不動産屋のオヤジとしては「そう単純な話じゃないんだよな」というのが本音です。
JR東日本の発表によると、築78年になる釜石線・小佐野駅の駅舎を、建設用3Dプリンターで建て替えるとのこと。現場に機械を据えて、その場で直接造形するやり方は、駅舎としては日本で初めてだそうです。新しい駅舎は延べ床7.5平方メートルほどの小さな平屋で、来年3月に使い始める予定になっています。
家は「箱」じゃない
世間では「これからは家が数百万で買える、家電みたいな消耗品になる」なんて声も聞こえてきます。確かに職人不足が深刻な建設業界にとって、工期短縮とコストダウンは喉から手が出るほど欲しい技術です。でも、家というのはただ雨風をしのぐ「箱」じゃありません。
建物をポンと置く土地には、建築基準法やら借地借家法やら、町内会の暗黙のルールやら、極めてローカルで泥臭い権利関係がこびりついています。
何より、岩手の冬を舐めちゃいけません。凍てつく寒さ、容赦なく積もる雪。どこでも同じ品質を出力できる工業製品をただ置いただけの、自然を力技でねじ伏せるようなやり方では、この土地の気候風土には絶対に馴染まないと思うんです。木の香りや、土壁がスゥッと湿気を吸うような、あの身体的な心地よさがすっぽり抜け落ちてしまう気がします。
曲面が、雪国の答えになるかもしれない
じゃあ、3Dプリンターは岩手の住文化を壊すのか。ずっとそう疑っていましたが、どうも違うかもしれないと、最近考えが変わってきました。
3Dプリンターの本当の凄さは、「曲面」をまっすぐな壁とほとんど変わらない手間で作れることにあります。盛岡の雪を自然に落とす流線型の屋根や、冬の冷たい風圧をスルリと逃がす丸い壁。それを、特殊モルタルだけでなく、その土地の土や間伐材を混ぜたバイオ素材で「出力」できたらどうでしょう。
かつて地元の木を伐り出して、地域の気候風土に寄り添いながら家を建ててきた日本の住文化。それを、最新のテクノロジーが現代版の「土壁」として再現できる日が来るかもしれません。
身軽に、でも根を張って
35年ローンという重圧に縛り付けられることなく、もっと身軽に、でもしっかりとその土地に根を張って暮らす。釜石のあの小さな駅舎は、そんな「新しい土着の家」への第一歩になるんじゃないか。
そんな期待を抱きながら、今日も盛岡の町を走り回っています。
本記事の小佐野駅に関する記述は、東日本旅客鉄道株式会社 盛岡支社の発表「建設用3Dプリンターを活用し釜石線『小佐野駅』の建替えを行います」(2026年9月30日)をもとにしています。