コケが育つコンクリート 経年変化を味わいに変える岩手発の技術
先日の新聞で、岩手の建設会社と大学が共同で進めている建築技術の記事を読みました。
遠野市の総合建設業「栄組」と、八戸工業大学、秋田大学の研究グループが、コケの定着を促す「ケイ藻土含有コンクリート」の開発に取り組んでいるという内容です。
既存のコンクリートにコケの居場所をつくる
仕組みは、既存のコンクリートの表面にケイ藻土を含んだコンクリートを吹き付け、細かな孔の多い下地をつくってコケを根付かせるというものです。
これまで緑化が難しかったインフラ設備に使える技術として、表面温度や放射熱を下げる暑熱緩和の効果が期待されていると報じられています。温暖化への対策として、意義のある取り組みだと思います。
外装材は必ず汚れ、くすむ
私がこの記事に惹かれたのは、環境対策としてだけでなく、建築素材として面白いと感じたからです。
住宅の外装材は雨風と日射にさらされ続けるため、年数とともに汚れやくすみが必ず出ます。木造が多い日本の家では、外装材の選び方が住まいの寿命と見た目を大きく左右します。
日本の建築には、この経年変化を劣化としてだけでなく、味わいとして受け止める感性があります。わび・さびと呼ばれてきたものです。
銅板屋根の緑青に通じる発想
神社仏閣の屋根に使われる銅板は、葺いた当初は赤みを帯びた金属色ですが、年月とともに緑青と呼ばれる青緑色の錆に覆われていきます。
この緑青の膜には、内部の腐食の進行を抑える働きがあります。見た目の変化が、そのまま耐久性を支える仕組みになっているわけです。銅板が高級な屋根材として長く使われてきた理由の一つです。
コケが育つコンクリートにも、これに近い発想を感じます。無機質なコンクリートが、時間とともに緑に覆われていく。その変化を劣化ではなく景観として受け入れられるなら、構造物の見え方は大きく変わります。
盛岡で使うなら気になること
一方で、現場の人間として気になる点もあります。
住宅の外壁や基礎にコケが付くのは、日当たりや水はけが悪い、湿気がこもっているといった合図であることが多く、私たちは普段、清掃や手入れをお勧めする立場にあります。
また盛岡のように冬の冷え込みが厳しい土地では、水分を含んだ表面が凍結と融解を繰り返し、コンクリートを傷める凍害が起こります。コケを育てる前提の素材が、寒冷地でどのような耐久性を示すのか。実証の結果を待ちたいところです。
実用化は2028年の目標
記事によれば、研究グループは2028年の実用化を目指し、米国、メキシコ、ブラジルなど海外での特許申請も進める予定とのことです。
岩手の会社と大学から生まれた技術が、暑さ対策という世界共通の課題にどう応えていくのか。そして経年変化を味わいとして受け止める日本の感性が、海外でどう受け取られるのか。
不動産と住まいに携わる者として、盛岡の気候の中でこうした素材がどう活かされていくのか、今後の実証と展開を見ていきたいと思います。
本記事は新聞報道をもとに整理しています。実用化の時期や海外での特許申請の予定は、今後変更される可能性があります。